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インド舞踊理論物語
「ナーティヤ・シャーストラ」から「アビナヤ・ダルパナ」へ

 
インド舞踊は表現の種類や技法に関する理論が発達しています。

「ナーティヤ・シャーストラ」と「アビナヤ・ダルパナ」という最も重要なふたつの理論書を紹介しながら、実践レベルで頻用される「ヌリッタ」と「ヌリティヤ」という概念の変遷に焦点を当てて解説しました。

非常に簡単で便利な概念で、この二項図式を知るだけで、舞踊表現を分析的に見られるようになると思います。

「ナーティヤ・シャーストラ」と「アビナヤ・ダルパナ」

カタックはこんなもの

 
ここでは動画の補助として簡単な解説を加えておきます。
 

ナーティヤ・シャーストラ (Natya Shastra)

ナーティヤ・シャーストラは、紀元前2世紀から紀元8世紀頃に成立したとされる、インド最古の演劇理論書です。その成立年代は諸説あり、著者はバーラタとされますが、特定の個人による創造なのか、藝人集団によって口承で伝えられたものが後にテクストとして定着したものか、議論が分かれています。


この書は自身を「第五のヴェーダ」と規定し、神々の時代から人間が苦難を経験するようになった際に、造物主ブラフマーが聖仙バーラタに授けた「人類を救い、霊的完全性を取り戻すための大いなる贈り物」としての演劇(Natya)であると主張しています。

ここでいうNatyaとは、芝居・音楽・舞踊・詩・身ぶりなど、あらゆる芸術形式を統合する、総合的かつ聖なる藝術のことを意味します。
 

アビナヤ・ダルパナ (Abhinaya Darpana)

アビナヤ・ダルパナは、舞踊に特化した理論書で、著者はナンディケーシュヴァラとされます。成立年代については諸説ありますが、概ねナーティヤ・シャーストラよりも後の中世、遅くとも12世紀には成立していたと見られています。

この書の最大の特徴は、舞踊という芸術に独立した理論的枠組みを与えた点です。ナーティヤ・シャーストラでは包括的な概念だったNatyaを、アビナヤ・ダルパナでは「Abhinaya(表現技法)」の下位に位置づけ、その中に「Natya(演劇的)」「Nritya(叙情的)」「Nritta(抽象的)」の三様相を区分しました。

つまり包括的な理論書であるナーティヤ・シャーストラの概念を利用し、組み替えることで、舞踊に限定した新しい知の枠組みを作り上げたのです。人文学の醍醐味を感じることができる、知のドラマです。

参考文献

論文

  • インド舞踊理論聖典『アビナヤ・ダルパナ』宮尾慈良 1986

 

書籍

  • Indian Classical Dance   Kapila Vatsyayan  1974

  • Bharata, The Natyasastra    Kapila Vatsyayan  1996

  • Kathak: The Dance of Storytellers   Rachna Ramya  2019

  • India's Kathak Dance: Past, Present and Future  Reginald Massey  1999

  • Anga Kavya   Birju Maharaj  2002

  • The Mirror Of Gesture   Ananda K.Coomaraswamy; Gopalakrishnayya Duggirala 1917

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